実務家教員インタビュー Vol.01.

学校法人 産業能率大学 経営学部 教授
佐藤義博先生

企業の採用や社員教育に関わった経験を活かし、現在、産業能率大学で会社の経営やリーダーシップ、チームマネジメントを教えている佐藤義博先生に、大学教員になったきっかけや大学教員にとって大切なこと、企業と大学の違いなどについてお話を伺いました。

企業で人材教育に関わってきたからこそ伝えられることがある

Q 大学教員を目指した理由を教えてください。

A 「『良き社会人』になるために大切なことを学生や若手に伝えたい!」という思いが大きかったからですね。
 もともと人に教えることが好きで、昔から教育に関わりたいと考えていたため、大学は教育学部で学んでいました。しかし一度は企業に就職して社会を知りたいという理由から、「また大学に戻りたい」という思いをもちつつも、大学卒業後、リクルートに就職したんです。リクルートには10年間在籍し、クライアントとなる企業の採用や社員教育に関わっていました。
 その後は、産業能率大学に、教員ではなく社会人向けの総合研究所(当時は事業本部)の職員として転職し、そこでも企業の研修などに関わっていました。そういった企業における研修や教育に関わる中で、社会人のハイパフォーマーとノーマルパフォーマーとで何が違うのかを考えたとき、新社会人になって3年目ぐらいまでの仕事の取り組みなどのスタンスに要因があるのではないかと感じるようになりました。その3年目くらいまでのスタンス次第で、その後の10年、20年のキャリアがある程度決まるんじゃないかと。そのスタンスについて、これまで多くの人材教育に関わってきた私だからこそ伝えられることがあるんじゃないか、という思いがありました。そこで、経営管理研究所長となったのち役職定年を機に、人の教育にもっと関わりたいと考え、大学教員の道に進んだんです。

Q どのような方法や手順で大学教員へアプローチされましたか。

A まずは自分がどのような分野の講座を教えることができるかを明確にしました。つまり、自分の得意分野を固めていく作業ですね。自分の経験や知識、技能をベースに何を教えられるか、教えたいかをはっきりとさせていきます。それをしたら、どの大学のどの学部なら自分の分野を生かせるかをリサーチしました。勉強会などでも大学教員やその採用などの情報が入ってくるため、積極的に参加していましたね。ちなみに大学の教員には、研究を重視する研究型と、学生の教育を重視する教育型があります。大学教員の採用の観点で言うと、研究型ですと目指せる学部学科がかなりしぼられてしまうため、教育型のほうが間口は広いように思います。

 大学のリサーチや勉強会に参加していると、教員の募集の情報もおのずと入ってきますから、あとは直接的に大学にアプローチしていきました。学会などに参加して大学や教員とつながりを作ることも重要ですが、最終的には大学に直接アプローチすることが大切だと考えています。確かに労力はかかりますが、直接アプローチすることで、自分にマッチしたところを見つけやすく採用につながりやすいように思います。
 私の場合、企業の経営や人事制度に関心があり、そのような仕事に従事したいと考え職員として産業能率大学に勤めていましたが、通常、同じ大学内であっても職員から教員になるのは採用形態や人事制度も異なり、ハードルは高く転職とあまり変わりません。有利なことといえば、同じ法人なので大学の教員情報が入ってくることです。ただ、こちらの人物像や勤務状況等も法人に知られているわけですので、そのまま職員として定年を迎えることも考えていました。

 しかし、役職定年を前に、今までやってきたことを直接学生に伝えたいと考え、一念発起して教員への転職にチャレンジしてみることにしたのです。行動としては、応募書類を記入し法人の人事部長に直接提出しました。その書類では、何をやってきたか自身のキャリアを丁寧に記入し、学生に対して何が伝えられるか、何を伝えたいかを、自分なりに具体的に記入しました。

自分の中にしっかりとした価値観をもつことが大切

Q 企業と大学とで、働くうえでどのような違いがありますか。

A 企業にいれば通常上司からの指示で業務にあたりますが、大学にはそれがない。もちろん学長からの人事評価はあるのですが、おそらく大学教員はその評価をそれほど気にしていないのではないかと思います。とにかく重視しているのは、学生からの評価ですね。どれだけ学生が満足できる学びを提供できたかがとても大事だと考えています。
 そのようななかだからこそ大切になってくるのが、自分の価値観をしっかりもっておくことだと私は思っています。「自分はこういう考えで、このように学生と接し、この内容を教える」というものを自分の中にもっておくということ。例えば、学生を教えていくなかで、学生とどこまで関わりをもつかということに悩む人もいると思います。ただ近すぎても遠すぎても、どれが「正しい」「誤り」というものはありません。「自分ならこうする」という軸を自分の中にもっておく必要があるのです。
 また、企業における部下育成と学生の教育もまったく異なります。企業では業務のパフォーマンスも考えながらチームでどう成果を出すかを考え部下育成をしていく一方、大学では。教えたことを学生がどのように受け止め、学んでくれたかに限りますね。

Q 大学教員として大切にされていることは何ですか。

A 学生にいかに考えさせるようにするか、ということですね。私は「質問」と「発問」を区別していて、「質問」はわからないことをたずねる、「発問」は答えを知っていながらあえてたずねる、としています。学生にはこの「発問」を意識的に多く行っているんです。例えば「ここのポイントって何? 教えて」のようにですね。学生もその発問を受けて一生懸命考えています。
 あとは、私の授業に対する学生の理解度を測るにしています。私と学生とでジェネレーションギャップがありますし、ビジネスパーソンと学生という立場でベースとなる知識や経験が違う。だから私が話した意図がそのまま伝わっているとは限らないのです。私としてはかなり易しくしたり例えを用いたりして伝えても、伝わっていないことがあるんです。意図がうまく伝わっているかを見るために、授業の最後に振り返りとして「いちばんためになった内容は何か」を書かせるなど、工夫しています。
 また企業に勤めた経験を生かして、企業の実例を話したり、実際に企業の後輩を連れてきて話をさせたりするなど、実務家教員だからこそできる指導も積極的に行っています。特に私は企業で、さまざまな会社の採用にも関わってきましたから就職活動のアドバイス、模擬面接など行っているんです。学生にとってもインパクトがあるようで、興味をもって授業を受けたり、私の話を聞いたりしてくれています。

まずは「自分のオリジナリティ」をはっきりとさせよう

Q これから大学教員を目指す方へのアドバイスをお願いします。

A 実務家教員として学生を指導するためには、先ほど申し上げたように、自分の得意分野をしっかりと創っておくことが大切です。大学では、小学校~高校のように学習指導要領があるわけではないですから、何を教えるのか、教えたいのか、教えられるのかをはっきりさせておくとよいでしょう。実務家教員になる方は、自分の知識、経験を教育として体系立てて、どのようにコンテンツとしてまとめるか悩まれる方が多いですが、コンテンツ作りの前に、まずは自分の思いをはっきりとさせることが大切だと思います。ぜひ「自分のオリジナリティ」を創ってください!

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